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金融・保険のAI導入|金融庁の整理と、社内利用から広げる順序

金融・保険のAI導入|金融庁の整理と、社内利用から広げる順序

規制業種だからAIは使いにくい。金融・保険ではそう考えられがちですが、金融庁の見方は違います。2026年3月に公表されたAIディスカッションペーパーでは、技術革新に取り残されて中長期的に良質な金融サービスの提供が困難になる「チャレンジしないリスク」も十分に認識されるべきだと明記されました。

そこでこの記事では、この文書に沿って金融・保険のAI活用を整理します。すでに何がどこまで使われているのか、不正検知や与信、コールセンターで何が論点になるのか。そして説明可能性や個人情報保護について、金融庁がどのような考え方を示しているのか。社内で検討を進めるための材料として使える内容です。

金融・保険のAI活用領域|金融庁調査では9割以上が何らか活用

金融・保険は規制の多い業種です。そのためAI活用に慎重になりがちですが、実態としてはすでに広く使われています。

まず現在地を確認する

金融庁は2026年3月、「AIディスカッションペーパー(第1.1版)」を公表しました。2025年3月の第1.0版を改訂したものです。

この文書に掲載されているアンケート調査(2024年10月〜11月実施、130社が回答)によると、回答先のうち9割以上が従来型AIまたは生成AIを何らか活用していることが判明しています。

生成AIの利用範囲 割合
幅広く一般社員向けに利用を可能としている 71.1%
特定の部署の社員に限定して利用を可能としている 14.9%
利用は行っていない/利用範囲について検討中 12.4%
その他 1.7%

7割を超える先が、一般社員に生成AIを開放しています。「規制業種だから使えない」という前提は、すでに実態と合っていません。

金融庁は「チャレンジしないリスク」に言及している

ここが重要な点です。同文書には次のように記されています。

リスクへの対応が重要であることは論を俟たないが、AIはリスクを大きく上回る便益をもたらす可能性が高いとの指摘もあり、技術革新に取り残されて中長期的に良質な金融サービスの提供が困難になる「チャレンジしないリスク」も十分に認識されるべきである。

あわせて、金融庁の基本スタンスは技術中立であり、既存の法令等はAIなど特定の技術を利用しているか否かに関わらず適用されるとされています。また、規制の適用関係の明確化等を通じてセーフハーバーの提供に努めていくとも明記されています。

この文書の位置づけを誤解しない

一方で、注意すべき点があります。同文書は「モニタリング上の目線や金融機関等に求める具体的対応を示すものではなく」と明記されています。

つまり規制でも監督指針でもなく、今後の対話に向けた初期的な論点整理という位置づけです。「ここに書かれた課題に全て対応しなければAIを導入してはならないといった趣旨で記載したものではない」とも述べられています。

チェックリストとして使うのではなく、検討の視点として使う。これがこの文書との正しい向き合い方です。

社内利用|文書業務は7割超が導入済み

金融庁の整理では、生成AIのユースケースが3つに分類されています。

類型 内容 現状
社内利用(業務効率化等) 文書作成、要約、翻訳、社内情報検索 主にここで活用が進んでいる
対顧客サービスへの間接的な利活用 コールセンター職員の対応支援、稟議書のドラフト 一定程度広がっている
対顧客サービスへの直接利用 顧客にAIの出力を直接提示する 一部のフィンテック事業者等に限られる

金融庁の整理を踏まえると、まずは1つ目から着手するのが現実的です。

導入率が高い3つの用途

同文書によると、「文書の要約」「翻訳」「文書等の校正・添削・評価」の3つは、すでに7割以上の金融機関等が導入済みです。従来型AIで導入率が高かった顧客対応業務やOCRでも6割未満であることと比べると、この数字の高さが分かります。

具体的な利用例として挙げられているのは、対外公表情報の要約、議事録の作成(オンライン会議等の文字起こし)、外国語の翻訳、誤字脱字の添削などです。規制当局向けの文章を作成する際にフォーマルな文体を指示するなど、読み手に応じたトーン調整も可能な水準に達しているとされています。

また、社内FAQなどの情報検索は約4割が導入済みです。RAGを活用して社内規程等を参照させる仕様に発展させている先もあります。

暗黙知の継承という目的

この社内情報検索について、興味深い記述があります。

社内規程のような全員に共有されているデータだけでなく、会社実務に精通している経験値の高い職員の属人的な知識や知見を見える化する目的での活用も確認されているとのことです。人手不足が意識される中、ノウハウや暗黙知を若手職員に継承することを目的に積極的に取り組む意義を強調する回答もあったとされています。

効率化だけでなく、人が抜けたときに失われる知識を残すという観点は、金融機関に限らず多くの企業に当てはまります。

導入後に使われなくなっていない

もう一つ注目すべき数字があります。生成AI導入後の利用状況について、「導入後よりも現在の方が活発に利用されている」が38.8%、「導入後から大きな変化なく継続的に利用されている」が30.6%でした。一方、「導入直後は頻繁に利用されていたが、現在の利用は低位に留まっている」は7.4%にとどまります。

約7割が、現在も活発または継続的に利用している計算です。なお、同文書では約半数が汎用の生成AIをそのまま活用しているとされており、大がかりなカスタマイズをしなくても定着しうることを示しています。

業務の選び方はAIによる業務効率化、社内ルールの作り方は生成AIの導入で整理しています。

不正検知・AML/CFT|自社データだけでは足りない

従来型AIの活用が進んでいる領域です。取引モニタリングやネームスクリーニングで、ルールベースでは識別が難しい異常パターンを検知する用途が中心になります。

共通する課題は、学習データの不足

この領域には構造的な難しさがあります。実際の不正案件の発生件数が少ないため、自社データだけでは学習データが不十分になるという点です。

金融庁の文書でも、個社での自社開発では学習データに限りがあり十分な精度が得られず本番利用を見送ったと回答した先があったことが紹介されています。

3つの対処が確認されている

  • ルールベースとの併用 — 既存の不正検知システムと組み合わせる
  • 共同開発 — 業態を同じくする数社が共同でモデルを開発する
  • 外部サービスの利用 — 複数の金融機関のデータを活用したサービスを利用する

2つ目と3つ目は、単独では集められないデータを、業界として集めるという発想です。同文書でも、セキュリティやコンプライアンスなどの非競争領域においては連携の余地が大きいと指摘されています。

生成AIの進展で、脅威の側も変わっている

あわせて押さえておきたい論点があります。生成AIは防御だけでなく、攻撃の側にも使われています。

同文書では、AIが生成したメールやフィッシングサイトによる詐欺、ディープフェイク技術による偽動画・偽音声を用いたなりすまし、偽の証明書類や虚偽の取引情報の提示などが想定されるとしています。そして従来のKYC手続や認証システムでは実在の人物との見分けが困難になり、本人確認をすり抜ける可能性が指摘されています。

つまりこの領域は、効率化のためではなく、対抗するために取り組む必要があるという性格を持ちます。

与信・引受査定|データは比較的揃っているが、説明が要る

顧客のローン返済履歴を学習させた与信判定モデル、過去の審査判定データを学習させた保証審査モデル、購買データを活用した与信スコアリング。この領域でもAIの活用が進んでいます。

データは比較的蓄積されている

金融庁の文書では、興味深い比較がなされています。これらのモデルの精度は学習データの質や量に依存するものの、不正検知と比較すると相対的に自社内で多くのヒストリカルデータが蓄積されているため、AIのみの判断でも比較的高い精度が得られると評価する回答が少なくなかったとされています。

不正は稀にしか起きませんが、与信判断は日常的に大量に発生します。この件数の差が、そのままデータの蓄積量の差になっています。

ただし説明可能性が壁になる

一方で、この領域には固有の難しさがあります。同文書は次のように述べています。

与信判断など、その影響(リスク)に照らして重要な判断にAIを用いる場合、当該AIの性質に応じて、どのようなデータで学習したか、RAG等を利用する場合どのようなデータを参照したか、どのようなプロンプトが与えられたか、出力結果の記録とモニタリングが機能しているかといった観点から、金融機関自身が判断の合理性を検証・説明できるようにする必要がある。

この4点は、そのまま検討時の確認事項として使えます。「精度が高いから使う」だけでは足りず、なぜその判断になったかを自社で説明できる状態が求められます。

公平性という論点もある

あわせて、学習データやアルゴリズム、モデルの推論結果に偏りが含まれると、特定の属性を持つ顧客に対して構造的な差別その他の不公平な処遇が行われるリスクが高まると指摘されています。

ここで示されている視点が実務的です。過去のデータで構築したモデルに公平性・バイアスの観点から問題が確認された場合、過去の判断において同様の問題が発生していた可能性があり、これをきっかけに既存のビジネスプロセスの見直しに繋げていくという考え方です。

AIの検証が、それまでの業務の点検になる。この副次的な効果は、他の業種にも当てはまります。

コールセンター支援|顧客に直接出さない設計が大半

対顧客サービスへの間接的な利活用として、最も広がっている領域です。

現状は「職員を支える」使い方

金融庁の文書によると、コールセンター業務などの対顧客サービスに生成AIを導入済の先は相応に存在するものの、ハルシネーション等のリスクを考慮して生成AIのアウトプットを顧客に直接提示することはなく、人の判断を介するユースケースが大半となっていることが確認されています。

つまりコールセンター職員が顧客対応をする際の補助として使う形です。

効果が出る相手が限定的

ここに率直な記述があります。こうした活用方法について、すでに業務に習熟している職員に追加的にもたらす便益は限定的である一方、新たに職務に従事する職員にとっては大きな助けとなっているとされています。

そして職場全体の離職率低下に大きく寄与しているといった評価も聞かれているとのことです。

この点は導入を検討する際の判断材料になります。そのため、導入効果は職員の習熟度や入れ替わりの状況によっても変わると考えられます。

顧客に直接出す場合の4つの観点

第1.1版では、顧客向けサービスへの活用を検討する際のリスク低減策が、4つの観点で整理されています。

観点 示されている対応の例
設計と事前のテスト・検証 システムプロンプトやRAGによる回答内容の制御。「必ず儲かる」といった断定的な判断を防ぐための重層的なガードレール
顧客への説明・注意喚起 利用開始前に、生成AIによる回答であることと、特性上誤りが含まれうることを注意喚起する
記録・モニタリング AIと顧客との会話ログを保存し、不適切な回答がないかを監視する
ガバナンス 経営陣を含む全社的な体制整備と、現場職員に至るリテラシー向上

あわせて示されている設計上の工夫も参考になります。AIが対応するサービスと人間が対応するサービスを利用者が選択できるようにすること顧客の選択によりいつでもAI対応から有人対応へ移行できるようにすること事務的な手続などからAIの活用を始め、知見を蓄積しながら中核的な業務へ適用領域を広げていくことなどです。

規制・ガイドラインへの対応|個人情報保護が大きな論点

金融庁の調査で、生成AIにより課題が難化したと感じている金融機関等が最も多かったのが個人情報保護でした。ここを整理します。

金融庁が示した4つの論点と考え方

第1.1版では、AI官民フォーラムで専門家から示された見解が紹介されています。

論点 示された考え方(要旨)
学習データとして顧客の個人情報を扱う場合 統計データへの加工自体を利用目的とする必要はないとするQ&Aの趣旨に鑑み、AIの開発・学習についても利用目的への明記は不要と整理できる場合がありうる
プロンプトに個人情報を入力する場合 生成AIサービスの提供者を、個人データの取扱いの委託先として管理する必要がある。指示なく追加学習に使用されないこと等を確認する
開発を外部ベンダーに委託する場合 個人データの取扱いを含めて委託する場合には、必要かつ適切な委託先管理が必要
海外にサーバーを置くサービスを使う場合 越境移転規制はサーバー所在地ではなくAI事業者の所在地を軸に検討する。ただし基準適合体制や外的環境の把握ではサーバー所在地を考慮する必要がある

2つ目と4つ目が実務で効きます。「提供者を委託先として管理する」という整理は、契約と確認の手順に直結します。また4つ目は、判断の軸を取り違えやすい部分です。

なお、これらはフォーラムで専門家から示された見解として紹介されているものです。個別の判断にあたっては原文および個人情報保護委員会の資料をご確認ください。

AIの利用(推論)を利用目的に書くべきか

実務的な問いにも整理が示されています。AIの利用を利用目的として明示すべきかについては、当該取扱いを顧客が合理的に予測・想定できるかが重要なポイントとされ、チャットボットのように顧客が認識可能なものや、従来業務の単なる自動化は、予測・想定可能と評価できる場合が多いと考えられるとされています。

参照されている外部の基準

規程等の整備にあたり参考とした文書として、多くの金融機関等が「AI事業者ガイドライン」(総務省・経済産業省)を挙げたとされています。あわせて民間団体等のガイドラインやFISC公表資料、EU等の海外AI関連法令等も参照されています。

なおFISC(金融情報システムセンター)の「金融機関等コンピュータシステムの安全対策基準・解説書」では、2025年3月発行の第13版でAIを対象とする基準項目が追加されました。ただし2026年3月に第14版が発行されており、こちらが最新です。

金融庁の文書は第13版の時点を前提に記述しているため、実際に参照する際は最新版でご確認ください。金融機関でAIの導入を検討する場合、この基準の該当項目の確認も必要になります。

情報の扱いを社内でどう決めるかは生成AIの導入で整理しています。

どこから着手するか|社内利用で知見を貯めてから広げる

金融庁の文書全体から読み取れる進め方は、次の順序です。

順序 領域 理由
1番目 社内の文書業務(要約・翻訳・校正) すでに7割以上が導入済み。汎用ツールでも成果が出ている
2番目 社内情報検索(規程・FAQ) 約4割が導入済み。暗黙知の継承にもつながる
3番目 職員向けの対応支援(コールセンター等) 顧客に直接出さないため、リスクを抑えられる
4番目 顧客への直接提供 4つの観点での対応が前提。段階的に領域を広げる

「付け足す」だけでは効果が出ない

同文書には、実務上きわめて重要な指摘があります。

AI導入の効果は既存の業務フローを残置してAIサービスを付加的に採用するだけでは限定的になりやすく、AIの利活用を前提としてビジネスプロセス全体を見直すことが重要との声が多く聞かれた。

期待した効果が得られなかった例として、AIサービスのアプリを開くまでの動線が悪く、社内データとの連携も不可であるため業務利用が進んでいない事例が挙げられています。

また同フォーラムでは、世界中の企業における生成AIに関する実証実験の95%が、試験段階から本番稼働に移行できていないことを示す海外のレポートが紹介されたとされています。ツールを入れることと、業務が変わることは別だという指摘です。

効果測定の考え方も変わりつつある

投資対効果についても、示唆的な記述があります。これまでのDX案件のKPIとしては業務の「削減時間」が代表的でしたが、業務プロセスそのものを変革するAIの評価にはなじまない可能性が指摘されたとのことです。

あわせて、複数の定量指標を複合的に確認する必要性や、指標の測定は短期サイクルで行いつつも、その評価は長期的な時間軸で行うべきとの意見があったとされています。

地域金融機関向けの動きもある

規模の小さい金融機関にとっては、単独での対応に限界があります。この点について、同文書では金融庁が「生成AIを活用した地域金融機関のDX化に向けた実証研究事業」の実施を予定していると記載されています。

顧客からの照会に基づいてFAQや各種書類等を検索して回答を生成することや、職員の指示に基づいて決算情報等の事業者情報を確認し回答を生成することなどが想定されており、得られた知見を利用方針等として取りまとめて情報提供するとされています。地域金融機関では、この動向を確認する価値があります。

相談する前に整理しておく4項目

  • どの類型の話か — 社内利用か、顧客対応の支援か、顧客への直接提供か
  • 対象業務の現状 — 件数、所要時間、担当者数
  • 使用するサービスの契約形態 — 入力内容の扱い、事業者の所在地、サーバーの所在地
  • 誰が判断するか — リスクの高い用途では事前審査の体制が必要になります

費用の考え方はAI導入の費用相場、つまずきの型はAI導入でよくある失敗、全体の進め方はAI導入支援で整理しています。

当社は受託でのシステム・アプリ開発を本業としています。社内向けの業務システムや、職員が使う仕組みの構築についてご相談を承ります。金融規制の解釈や、監督上の取扱いに関する判断については当社の専門とは異なりますので、その部分は所管部署や専門家にご確認いただくのが確実です。どちらに当たるか判断がつかない場合は、その切り分けからお手伝いできます。

ドコドア やまだ

ドコドア やまだ

Webサイトの構築・UI改善・SEO設計を中心に、WordPressやShopifyを使ったWeb制作に携わっています。
現在はアプリ開発にも取り組み、Web・アプリの両面から使いやすいサービスづくりを目指しています。
このブログでは、制作・開発の現場で得た気づきやノウハウ、Web・アプリ開発、AI活用に関する情報を発信しています。

【主な技術スタック】 PHP / HTML / CSS / SCSS / JavaScript / WordPress / Shopify / Dart / Flutter

また、SNSでもWeb制作やAI活用に関する情報を発信中です。
Instagram : https://www.instagram.com/docodoor_yamada/

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