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人材・採用のAI導入|表示義務と公平性を踏まえた使い方

人材・採用のAI導入|表示義務と公平性を踏まえた使い方

求人票の作成、スカウト文面、候補者の絞り込み、面談記録。人材・採用の業務は、扱う件数が多く文章を書く場面も多いため、AIが効きやすい領域です。ただしこの業種には2つの前提があります。求人情報には職業安定法上の表示義務がかかること、そして候補者の選別に使えば公平性が問われることです。

そこでこの記事では、人材・採用でAIが使える5つの領域を、規制との距離で整理します。すぐ着手できるものと、設計を詰めてから進めるべきものを分けたうえで、過去データを学習させることの意味まで扱いました。自社のどの業務から始めるかを決める材料として使える内容です。

人材業界のAI活用領域|規制との距離で分かれる

人材・採用の業務は、AIと相性のよい作業が多く含まれています。書く、探す、まとめる。この3つが業務の中心を占めているためです。

ただし着手順は、業務量ではなく規制との距離で決めてください。

領域 何をするか 関わる論点 着手のしやすさ
面談記録の要約 面談・面接の内容を記録として整える 候補者情報の管理 最もやさしい
スカウト文面の作成 候補者ごとに送る文面の下書きを作る 記載内容の正確性 比較的やさしい
求人票の自動生成 求人情報から掲載用の文面を作る 職業安定法の的確表示義務 確認の仕組みが要る
候補者マッチング 要件に合う候補者を抽出・順位づけする 個人情報、公平性 設計を詰めてから
選考の判定支援 合否の判断材料を出す 公平性、説明責任 慎重な検討が必要

着手順は、上から

面談記録の要約から始めてください。候補者に直接届くものではなく、記録した本人が内容を確認できます。効果も分かりやすく、面談件数が多い事業者ほど大きくなります。

逆に、下2行から検討を始めると、法令や公平性の確認に時間を取られます。そして多くの場合、現場が本当に困っているのは選考の判定ではなく、書類作成と記録の負担です。

この業種に固有の2つの前提

1つ目は、求人情報の表示義務です。2022年10月1日に施行された改正職業安定法により、求人等に関する情報について的確な表示が義務づけられました。AIが生成した文章であっても、求人等の情報として掲載する以上、的確な表示のルールが適用されます。

2つ目は、候補者の選別に使う場合の公平性です。過去の採用データに偏りが含まれていると、AIがその傾向を学習し、出力に反映する可能性があります。これは技術の問題ではなく、学習データの性質による構造的なものです。

この2つを踏まえずに用途だけを検討すると、「作ったが公開できない」という状態になります。以下、領域ごとに見ていきます。

他業種を含めた事例はAI導入事例で整理しています。

面談記録の要約|まずここから始める

面談や面接の内容を記録として整える作業です。人材業界で最も時間を取られていて、かつ比較的着手しやすい領域がここです。

なぜ効果が大きいのか

1件あたりの負担は小さくても、件数が多いためです。1日に4件面談する担当者が、1件20分の記録作業をしていれば、それだけで80分かかります。

しかも記録は面談の直後に書けないことが多く、次の面談が終わってから思い出しながら書くことになります。時間が経つほど内容が曖昧になり、書く時間も長くなります。

3段階に分けて考える

  • 音声を文字にする — 面談を録音し、文字起こしする
  • 要約する — 記録の様式に沿って整える
  • 項目を抽出する — 経験、希望条件、転職理由などを構造化して取り出す

3段階すべてを一度に導入する必要はありません。1つ目だけでも、記憶に頼って書くより速く正確になります。

3つ目まで進むと、抽出した項目をそのまま管理システムに入れられるようになります。ただしこの段階では、既存システムとの連携の設計が必要になります。

録音の扱いを先に決める

技術的な検討より前に、確認しておくことがあります。

  • 候補者に録音することを伝え、同意を得ているか
  • 音声データをどこに保存し、いつ削除するか
  • 文字起こしを外部サービスで行う場合、音声が事業者側でどう扱われるか
  • 選考に関わらない担当者が、記録を閲覧できる状態になっていないか

3つ目が実務上の分かれ目です。候補者の氏名や勤務先を含む音声を扱うため、入力内容が学習に利用されない設定・契約になっているかを確認してください。

「事実」と「所感」を分ける

要約の設計で効くのがこれです。面談記録には、候補者が話した事実と、担当者が受けた印象の両方が含まれます。

AIに任せてよいのは前者です。「現職では3年間、法人営業を担当」といった発言内容の整理は、確認も容易です。一方、「意欲が高そう」といった所感は担当者が書いてください。

この線引きを様式の段階で分けておくと、後から見返したときに何が事実で何が印象かが判別できます。これは記録の品質としても意味があります。

業務の選び方はAIによる業務効率化で整理しています。

スカウト文面の作成|量産ではなく、精度を上げる使い方

候補者ごとに送る文面の下書きを作る領域です。効果は出やすいのですが、使い方を誤ると逆効果になります。

「速く大量に送る」に使わない

AIで文面を作れるようになると、送信数を増やす方向に向かいがちです。ただしスカウトの返信率は、候補者から見て「自分に宛てて書かれたものか」も影響します。

テンプレートに名前だけ差し込んだ文面は、受け取る側にはすぐ分かります。AIで作った文面も、経歴を踏まえていなければ同じです。量を増やすほど返信率が下がり、結果として工数も成果も悪化します。

効くのは「読み込む部分」の代行

スカウト作成で時間がかかるのは、文章を書く作業より候補者の職務経歴を読み込む作業です。ここにAIを使います。

  • 経歴の要点を抽出する — どの業界で、どの役割を、どれだけ担当してきたか
  • 求人との接点を挙げる — 求人要件と重なる経験がどこにあるか
  • 触れるべき点を示す — 経歴上の転機や、特徴的な実績

この3つが揃えば、担当者は「何を書くか」が決まった状態から書き始められます。文面そのものはAIに下書きさせてもよいのですが、価値の大半は読み込みの部分にあります。

書いてはいけない内容を決めておく

スカウト文面には、求人情報の一部が含まれます。ここに誤りがあると、次に述べる表示義務の問題につながります。

とくに賃金、勤務地、業務内容の3点は、AIに推測させないでください。求人票のデータから機械的に差し込む設計にします。

あわせて、候補者の属性に触れる表現も避けます。年齢、性別、国籍などに言及した文面は、それ自体が問題になりえます。禁止表現としてリスト化し、生成の指示に含めてください。

候補者の情報をどこまで入力するか

経歴を読み込ませる以上、候補者の個人情報を扱うことになります。着手前に、入力してよい範囲を決めてください。

  • 氏名・連絡先は入力しない — 読み込みに必要ありません。経歴部分だけを渡せば足ります
  • 現職の企業名を伏せるか判断する — 業界・規模だけで足りる場合があります
  • 使用するサービスの設定を確認する — 入力内容が学習に利用されない契約になっているか

1つ目は実務的な工夫です。読み込みに必要のない個人識別情報は、できる限り入力しない設計にします。

返信後の対応まで設計する

見落とされやすい点です。スカウトの返信率が上がると、その後の対応工数が増えます。

面談の日程調整、条件のすり合わせ、求人企業への推薦。ここが追いつかなければ、返信をもらっても機会を逃します。

文面作成だけを効率化しても、全体は速くなりません。返信後の流れのどこが詰まるかを、着手前に確認してください。

求人票の自動生成|職業安定法の的確表示義務がかかる

求人情報から掲載用の文面を作る領域です。効果は大きいのですが、この記事で最も注意すべき部分でもあります。

2022年に義務が明確になっている

2022年10月1日に施行された改正職業安定法により、求人等に関する情報の的確な表示が義務づけられました。

対象となるのは次の5つの情報で、いずれについても虚偽の表示・誤解を生じさせる表示が禁止されています。

  • 求人情報
  • 求職者情報
  • 求人企業に関する情報
  • 自社に関する情報
  • 事業の実績に関する情報

あわせて、求人情報を正確かつ最新の内容に保つための措置を講じることも求められています。変更があれば速やかに変更する、いつの時点の情報かを明らかにする、といった対応です。

※ここでいう「5つの情報」は、職業安定法上の「求人等に関する情報」の分類です。募集広告には、別途、募集主の氏名(名称)、住所、連絡先、業務内容、就業場所、賃金などの表示が必要です。

厚生労働省が示している「誤解をさせる表示」の例

公表されている資料では、具体例が挙げられています。

区分 示されている例
虚偽の表示 実際に募集を行う企業と別の企業の名前で求人を掲載する/実際の賃金よりも高額な賃金の求人を掲載する
誤解を生じさせる表示 営業職中心の業務を「事務職」と表示する/固定残業代を採用する場合に、基礎となる労働時間数等を明示せず基本給に含めて表示する

2つ目の「誤解を生じさせる表示」が、AIで起きやすい類型です。生成AIは訴求力を高めようとして、業務内容を魅力的な表現に置き換えます。その過程で、実態とずれた職種名や表現が入ります。

設計で防ぐ|条件はAIに書かせない

最も確実なのは、そもそも間違えようのない設計にすることです。

項目 扱い方
職種名、業務内容、賃金、勤務地、勤務時間、雇用形態 求人データベースから機械的に差し込む。AIに書かせない
固定残業代の有無と、その内訳 同上。基礎となる労働時間数まで含めて差し込む
企業の魅力を伝える文章 ここだけAIに書かせる

条件に関わる部分をAIが触らなければ、確認の負担も限定されます。訴求の文章だけを生成させる形にしてください。

年齢・性別の表現にも注意する

求人票では、応募資格の書き方にも制限があります。年齢や性別に関する表現にも注意が必要です。年齢制限は原則禁止で、性別を理由とする募集・採用上の差別も禁止されています。

AIが「若手が活躍中」「女性が活躍中」といった表現を安易に使わないよう、注意が必要な表現を社内ルールとしてリスト化し、生成時のチェック項目に含めてください。また出来上がった文面は、公開前に確認する担当者を決めておきます。

この記事は法的助言ではありません。求人表示の適否は個別の記載内容によって判断されます。厚生労働省の資料をご確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。

表示規制とAIの関係は、小売・ECでも同じ構造で問題になります。小売・ECのAI導入もあわせてご覧ください。

候補者マッチング|精度より、説明できるかどうか

要件に合う候補者を抽出し、順位づけする領域です。人材業界でAIといえばこれを思い浮かべる方が多いのですが、着手順としては後半になります。

2つの使い方を分ける

使い方 内容 論点
探索の支援 条件に近い候補者を、担当者が探す手がかりとして提示する 比較的取り組みやすい
選別の代行 AIの判定で候補者を絞り込み、それ以外は担当者が見ない 公平性と説明責任が問われる

1つ目から始めてください。担当者が全体を見たうえで、AIの提示を参考にする形なら、見落としをAIが拾うという効果が得られます。

2つ目は、AIが除外した候補者を誰も見ないことになります。この設計を採るなら、なぜその判定になったかを説明できる状態が前提です。

収集してよい情報の範囲

マッチングの精度を上げようとすると、より多くの情報を集めたくなります。ただし職業安定法では、求職者等の個人情報について業務の目的の達成に必要な範囲内で収集することが定められています。

また2022年10月の改正により、個人情報を収集・使用・保管する目的を、ウェブサイトに掲載するなどの方法で明らかにすることが求められています。

収集が制限される情報の範囲は、法令および指針で定められています。実際の運用にあたっては、厚生労働省の資料をご確認ください。

要件そのものが曖昧なことが多い

マッチングを検討すると、多くの場合ここで止まります。求人企業から示される要件が、そもそも構造化されていないためです。

「コミュニケーション能力が高い方」「即戦力」「カルチャーフィット」。こうした要件は、担当者が経験で解釈しています。AIに渡せる形にはなっていません。

この整理は、AIを導入しない場合でもやる意味があります。要件を言語化すると、求人企業との認識のずれが早い段階で見つかります。ミスマッチによる早期離職の予防にもつながります。

着手前に、直近の求人票を10件ほど見てください。そのまま検索条件にできる要件がどれだけあるかで、この領域の実現可能性が判断できます。

「精度が高い」だけでは足りない

この領域で最も重要な点です。マッチングの精度が高くても、なぜその候補者が上位に来たかを説明できなければ、実務では使えません。

求人企業から「なぜこの人を推薦したのか」と問われる場面があります。候補者から「なぜ紹介されなかったのか」と聞かれることもあります。「AIがそう判定したから」は回答になりません。

検討時に確認しておく項目を挙げます。

  • どのような情報をもとに判定しているか
  • 判定の根拠を、担当者が理解できる形で確認できるか
  • 判定結果を担当者が覆せるか。覆した記録が残るか
  • 提示されなかった候補者を、担当者が確認する手段があるか

3つ目と4つ目が、AIを判断者にしないための設計です。担当者が最終的に判断する構造を保ってください。

差別・公平性のリスク|過去データを学習させる意味

候補者の選別にAIを使う場合、避けて通れない論点です。技術の不具合ではなく、仕組み上そうなるという点を理解しておいてください。

なぜ偏りが再現されるのか

過去の採用データを学習させると、AIは「これまでどのような人が採用されてきたか」のパターンを学びます。

そのパターンに偏りが含まれていれば、AIはその偏りを再現します。特定の性別、年齢層、出身校、経歴の人が採用されやすかったという傾向があれば、それを「良い候補者の特徴」として学習してしまいます。

厄介なのは、直接その属性を学習させなくても起こりうることです。特定の属性と相関する情報が学習データに含まれていれば、間接的に同じ結果になります。

検証が、過去の点検になる

この問題への向き合い方として、実務的な視点があります。

AIに偏りが見つかったということは、その学習データ、つまり過去の自社の判断に偏りがあった可能性を示しています。AIの調整だけで終わらせず、これまでの選考基準や運用を点検する機会として扱うほうが、根本的な改善につながります。

金融庁がAIに関する文書で示している考え方も同じ方向です。公平性の観点から問題が確認された場合、過去の判断において同様の問題が発生していた可能性があり、これをきっかけに既存のビジネスプロセスの見直しにつなげるという整理です。

確認しておく4項目

  • 学習データの範囲 — 何年分の、どの職種の、どのようなデータを使っているか
  • 属性情報の扱い — 性別・年齢・国籍などを学習に含めていないか。含めていなくても相関する情報がないか
  • 結果の偏りの検証 — 出力を属性別に集計したとき、偏りが出ていないか
  • 定期的な確認 — 導入時だけでなく、継続的に見る体制があるか

3つ目は、外部のサービスを使う場合でも確認できます。提示された候補者の属性を集計してみるだけで、傾向は見えます。

選考の判定には、まだ使わない

ここまでを踏まえると、合否そのものの判定にAIを使うのは慎重に検討すべきだと考えています。

候補者にとって採用選考は人生に関わる判断です。説明できない基準で不利益を受けたと感じられれば、事業者への信頼にも影響します。

一方、担当者が見落としていた候補者をAIが拾うという使い方であれば、公平性はむしろ向上しうる方向です。同じ技術でも、判断者を代替するか支援するかで意味が変わります。

どこから着手するか|3か月で判断する

5つの領域を、着手しやすい順に並べます。

順序 領域 理由
1番目 面談記録の要約 件数が多く、確認も容易。既製ツールで試せる
2番目 スカウト文面(経歴の読み込み) 準備が不要。担当者の負担が直接減る
3番目 求人票の生成 求人データベースの整理が前提。確認の仕組みも要る
4番目 候補者マッチング(探索の支援) 既存システムとの連携と、説明可能性の確認が要る
5番目 選考の判定支援 公平性の検証体制が前提。慎重に検討する

3か月の進め方

1か月目|担当者2〜3名で面談記録を試す
法人向けの生成AIツールを数名分だけ契約します。実際の面談で使い、1件あたりの記録時間を記録してください。あわせて録音の同意と、音声データの扱いを整理します。

2か月目|スカウト文面に広げ、ルールを決める
経歴の読み込みに使ってみます。この段階で、入力してよい情報・してはいけない情報をA4で1枚にまとめてください。迷ったときの相談先も1名決めておきます。

3か月目|求人票に進むか判断する
ここで初めて、まとまった投資判断が必要になります。求人データベースの整理状況によっては、その作業が先になります。

着手前に確認しておく5項目

  • 対象業務の現状 — 面談記録なら月に何件、1件あたり何分、担当は何人か
  • 求人データベースの状況 — 条件が構造化されて管理されているか
  • 候補者情報の管理 — どこに保管され、誰が閲覧できるか
  • 表示に関する社内ルール — 禁止表現や確認体制が既にあるか
  • 誰が推進するか — 専任でなくてよいが、月に数時間を確保できる人

2番目が重要です。求人データベースが整っていれば、条件はそこから差し込み、AIには訴求の文章だけを書かせる設計にできます。これが表示に関するリスクを下げる、最も確実な方法です。

補助金が使える場合がある

中小企業の場合、ツール導入やシステムの構築に補助金を使える可能性があります。ただし交付決定の前に発注すると対象外になるため、導入時期が制度のスケジュールに縛られます。各制度の対象範囲はAI導入で使える補助金にまとめています。

費用の考え方はAI導入の費用相場、社内ルールの作り方は生成AIの導入、つまずきの型はAI導入でよくある失敗、全体の進め方はAI導入支援で整理しています。

面談件数と、いま何に一番時間を取られているかを伺えれば、着手すべき領域を絞り込めます。求人表示の適否や、法令上の判断については当社の専門とは異なりますので、その部分は専門家にご確認いただくのが確実です。どちらに当たるか判断がつかない場合は、その切り分けからお手伝いできます。

ドコドア やまだ

ドコドア やまだ

Webサイトの構築・UI改善・SEO設計を中心に、WordPressやShopifyを使ったWeb制作に携わっています。
現在はアプリ開発にも取り組み、Web・アプリの両面から使いやすいサービスづくりを目指しています。
このブログでは、制作・開発の現場で得た気づきやノウハウ、Web・アプリ開発、AI活用に関する情報を発信しています。

【主な技術スタック】 PHP / HTML / CSS / SCSS / JavaScript / WordPress / Shopify / Dart / Flutter

また、SNSでもWeb制作やAI活用に関する情報を発信中です。
Instagram : https://www.instagram.com/docodoor_yamada/

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